2015年5月27日水曜日

軍師の歴史読み物の完成形『アメリカ大統領戦記』

◆タイトル:『アメリカ大統領戦記 1775▶1783~~独立戦争とジョージ・ワシントン[1]』
◆目次
・開巻の辞
・1:若きジョージ・ワシントン
・2:ノースブリッヂの銃声
・3:ボストン包囲戦
・4:独立宣言
・5:イギリス軍の南部作戦
・6:ニューヨークの攻防
・7:ニュージャージー退却戦
・8:名将ハウの退場
・9:サラトガの快勝
・第一巻あとがき

兵頭二十八師の新刊『アメリカ大統領戦記 1775▶1783~~独立戦争とジョージ・ワシントン[1]』(草思社)を読みました。タイトルに[1]とあるように、同書はこれから続々と刊行されるであろう『アメリカ大統領戦記シリーズ』の第一巻です。オビによれば――

・独立戦争とジョージ・ワシントン[2]
・対英抗争から主権拡大時代
・南北戦争とエイブラハム・リンカーン
・ラテンアメリカの制圧と太平洋への進出
・第一次世界大戦から暗黒の木曜日まで
・第二次世界大戦とフランクリン・D・ルーズベルト
・核時代の大統領
・ソ連の消滅と世界経営

――という形で続刊を刊行する予定とのことです。

軍師の年齢から考えると、ある意味でライフワークと言えそうな一大シリーズを始めた理由はどこにあるのか? その意図について軍師は開巻の辞で以下のように書いています。

「アメリカの強大さの秘密は、なによりその、恵まれすぎた資源地理的な所与条件にある――と、頭から信ずることは簡単であった」
(中略)
「だが、その把握は、米国建国史の実相とは乖離している。アメリカが英帝国に宗主権を放棄させ、たちまちに世界強国となった理由は、有権者の質が高かったからである」
「質の高い有権者が、質の高い州政府や連邦政府を作った。質の高い政府は、適切な戦争指導ができた。その戦争指導が、一七七五年から一七八三年にかけては、ジョージ三世とその廷臣たちの戦争指導よりも、うまくいったのだ」
「かりにもし北米十三殖民地に入植していたのがシナ人や朝鮮人たちであたなら……と考えたら、分かるだろう」
「米国政府を代表する人格は、合衆国大統領だ。しかしその大統領に緊張感を持たせ続け、常に大国指導者らしく振る舞わせているのは、周囲の有権者たちなのである」
(中略)
「そうした『政府の質』がいちばん端的にあらわれる、戦史を追うのが、初学者としては適当かもしれない」(3~4頁)

つまるところ、日本のみならず世界中に多大な影響を与え続けている超大国・アメリカについて、兵頭流軍学の基本通りに“ゼロから考えてみる”ことを目指した本である――と、手前は考えています。開巻の辞の冒頭にある通り、「アメリカ合衆国は、今日なお継続中の『実験』である。同国がスーパーパワー(超大国)化するより前から、その実験には、文明化された全人類を代表するような趣があった」(1頁)わけですから、このアメリカについて“ゼロから考えてみる”ことで、現代社会における諸々のこと(日本及び世界レベルの安全保障から、アメリカ流の企業経営指針、社会制度、果ては種々の流行まで)を深く知ることができるといえましょう。もっといえば、日本と世界の近過去、現在、未来について考えたり、論じたりするのであれば、アメリカについて深く知らねばハナシにならないってことです。

では、その内容はどのようなものなのか?

一言で言うと「潤色を廃した独立戦争に関する歴史読み物」です。兵頭ファンの方限定に、もう少し詳しく紹介するなら、「『大日本国防史』より遥かに詳しいけど、『箱館戦争』よりもわかりやすい独立戦争史」というところでしょうか。軍師はこれまで様々な歴史読み物を上梓してきましたが、手前が思うに今回の新刊は、この路線の完成形です。塩野七生氏や井沢元彦氏の著作のような“歴史小説”ではないので、流し読みするように気軽に読めるものではありません。が、誤解を恐れずに言うなら、「いい意味で、限りなくこの手の“歴史小説”に近いリーダビリティ」が確保されています。

例のごとく、新たな知見、軍師らしい鋭い洞察も盛りだくさん――フリントロック式銃の限界(不発率は実に50%!)に規定された戦列歩兵の戦術。独立宣言に先立つヴァージニア憲法=宣戦布告書。独立宣言にいたる欧州における思想の変遷etc――なので、兵頭ファンであれば昼食を抜いても絶対に買うべき本です。実際、これが売れなければ続刊もないわけですからね。

兵頭本の未読者にはオススメできないのかって? ……確かに何の予備知識もない人には、読み通すことが難しいかもしれません。が、中学校の歴史の副読本(世界史部分)程度の知識があるならば、本を開いたら最後、夜が更けても止められなくなるほど夢中になって読めることを約束しますですよ。

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。


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