2013年12月7日土曜日

私家版・兵頭二十八の読み方:その26

**「私家版・兵頭二十八の読み方」のエントリでは、日本で唯一の軍学者である兵頭二十八師の著作を、独断と偏見を持って紹介します**

正社員として働いてきた老人をそのまま労働力として組み込めば、若者の雇用機会を奪い、社会の活性化は望めない。非正規雇用やニートを続けてきた老人は、そもそも労働力として員数に数えることはできない。彼らを養うには多大な税金が必要だが、だからといってこれを“排除”することもできない。ではどうすればいいのか?

この答えの見えない問題に対して軍師は、「老人を<準労働力>として社会に組み込んではどうか?」と提案しました。あ、ちなみに軍師は↑のようなことは一言も書いていません。あくまでも新刊を読んで手前が勝手に解釈しただけのことなので悪しからず。

その具体的な施策や提言は、新刊でこれ以上なく詳しく解説されています。「第5章:ニート老人に『予備畑』を管理させることで日本はどれくらい強くなるか」の、小見出しを抜粋してみると――

・日本の食料安全保障のリアルなリスクとは?
・海外からの食料輸入を担保するのは、カネか、軍事力か?
・世界的な食糧危機では最初の一~二年が肝要
・なぜ「予備水田」ではなく「予備畑」だけを考えるのか
・食糧と石油の奪い合いを見越した鄧小平
・天候リスクは農水省が心配すべき問題なのか
・「脱石油後」の農業の未来は、老人によって種を蒔かれる
・「耕地上仮設独居住宅」プロジェクトが人々の安心を確立する
・制度的イノベーションで、百万円の「Lo(ロー)基準住宅」を
・不作付け農地を貸す地主のメリットと、公共のメリット
・むしろレンタル最大面積の規制が必要
・どうやって「家屋単価百万円」を実現するか
・「メンテナンス・フリー」の屋根材を開発してほしい
・コンクリート・ブロックを進化させた壁にも期待
・「基礎工事」を今までのようにしないことについて
・土地の手当て――寒冷地と僻地の地価は下がる
・暖房をどうするかが大問題
・「予備畑」の管理と経営は画一的指導になじまず
・現実度外視の開拓政策がうまくいなかった過去の例(満州事変以前)
・明治顕官たちによる那須野ヶ原の開墾例
・空論の農業楽土だった満州国
・おそまきながら単位や総石高等の確認
・最終目標は「老人の独立活計」ではないこと
・気短な開拓は決してうまくいかない
・面積・技法などもすべて「クラウド」で探索するしかない
・山林に手を加え、自然の「救荒貯蔵庫」に改造しておくことはできるか

――という具合です。なお、これを書くために軍師は数年以上かけて自宅の庭で様々な作物の栽培実験を行っていたようです。その結果は、MIL短blogなどの植物栽培日記的なモノとしてアップロードされていたわけですが、よく訓練された兵頭ファンを自認する手前でさえ、「一体何が面白いんだ? てか、何のためにやってるんだ?」と思っていたほどに、意図のよく分からないものでした。しかし、これら全ては↑のためにあったということなのでしょう。当時の軍師は、一言でいうと未来に生き過ぎていたと思います。

さて、僻地と寒冷地に「予備畑」を作り、ニート老人を<準労働力>として社会に組み込むことで、どのような未来が訪れるのか。軍師は――

①:平時に不作付け農地や耕作放棄畑を「予備畑」にする。山林もできるだけ「後備畑」にする。
②:ニート老人を「予備畑」の常駐管理人にする。これにより終身居住可能な自宅っと農地を得、最低ランクの公的補助しかなくても餓死や野垂れ死にの恐れがなくなる。
③:①②が同時に起こることで、「食料有事」の危機を乗り切り、国民は餓死や野垂れ死にを心配することがなくなるので、将来への漠然とした不安が大きく改善されることだろう。

――と説いています(以上は250~251頁の内容を、手前が勝手にダイジェストしたものです)。

といっても、全ての高齢者を農業重視者にせい! というハナシでは全くないといえましょう。地方在住者だからといって農業をしなきゃならないわけじゃないでしょうし、都市部には都市部の仕事もあるでしょう。警備員ができる人なら警備員をやればいいし、介護士ができるなら介護士でもいい。

大切なことは、都市部に住むだけの収入がなく仕事のスキルもないような、現在であればホームレスになるしかないニート老人であっても、「予備畑」の管理人になればホームレスにならずに済むという「老後の人生の選択肢を増やす」ことにあります。

もっと言えば、現状のままではニート老人をホームレスに追いやるしかない年金、生活保護等の社会保障制度とか、インフレに極端に弱いベーシックインカム――軍師の言う石油高、原油高の時代になれば、ベーシックインカムで得られる給付は文字通り紙くずになるでしょう。また、物価スライド制を導入した場合は、いまの年金、生活保護制度よりも簡単に破綻するはず――のような“脆弱なセーフティネット”ではなく、税収や物価の影響を受けにくい“頑丈なセーフティネット”を掛ける提案ということです。

もちろん、これまでに誰も思いつかなかった大胆なアイディアだからこそ、ツッコミどころは多数あるでしょう。とりわけ農地の取り扱いを初めとする農業関連の話については、恐らく農家や農協、農政族議員を初めとするインサイダーの人から厳しく突っ込まれることの多い内容なのだと思います。

手前はインサイダーではないので、ツッコミどころがどこなのかを具体的に指摘することはできません。それでも、農業関係は利権で雁字搦めになっている世界なので、ちょっとした改革ですら、法律その他の点で、「こりゃおかしい!」とツッコミが入ることだろうということは、容易に想像がつきます。何しろ日本における農業関係の利権は、最も大きく深くかつどす黒いですからね。選挙のたびに半死人が出るのは、農業利権に関わる激戦区だけですし。

なのでこの辺のアイディアの深堀りについては、さらなる新著や保守系論壇誌だけでなく、是非とも農業関係の媒体……具体的に言えば農業業界紙やJAの機関紙などで読みたいところです。また、今回の新刊に限っていえば、こうしたインサイダーからの徹底的な批判にも期待しています。これまでに誰も主張してこなかった「手垢のついていないアイディア」なので、恐らくは批判の多くが建設的なモノと思われるからです。

高齢化問題の解決に、老人を<準労働力>として組み込むという新たな視点を基に、「予備畑」の管理人以外のアイディアはないか? 脱石油化時代における石油に頼らないビジネスとして、「予備畑」以外でベターなモノは考え得るか? “石油を食べている”ような現行の農業・漁業について、軍師の提案以外でモノになりそうなアイディアはないか?……etcと、一度ナナメ読みをしただけで↑のように啓発される本なので、ボーナスで懐の暖かくなった憂国の士は、是非、これを機会に軍師のアイディアを読むべし! と強力にオススメします。

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿