2012年2月3日金曜日

*読書メモ:食塩と健康の科学

・食塩と高血圧の関係を、最も印象付けた最初の学術的報告はL・K・ダールが1960年に発表した論文。食塩摂取量の少ないエスキモーに高血圧症の発症頻度が少なく、食塩摂取量の多い日本人(秋田県在住者)に高血圧症の発症頻度が多かった――という内容。しかし、この論文は収集データがあまりにも少なく、必ずしも信用できるものではなかった。

・以後、様々な研究者から数多く報告が上がってきたが、いずれも各研究者が独自の方法で収集・分析したもので、対象者の選択、分析方法もまちまちだった。しかし、1990年に行われたインターソルト研究により、食塩摂取量と血圧とのあいだには、「強くはないが明らかな正の相関関係があること」が疫学的に認められた。

・しかし、食塩を多くとれば必ず血圧が上昇するわけではない。数々の疫学的研究は調査対象の平均値であり、個々の人には当てはまらないからだ。実際、長期間にわたって食塩を多くとると慢性的に血圧が上昇する――というメカニズムは、現在でも完全に解明されているわけではない。

・血圧に対して食塩感受性の高い人は、全体の約40%ほど。これらの人は、食塩負荷時には血圧が上昇し、制限時には下降する。すなわち、高血圧症の人に対して食塩を制限した場合、血圧が明らかに下降するのは少なくとも半数以下ということ。

・食餌中のたんぱく質、特に動物性たんぱく質の摂取量の多寡が、食塩による血圧上昇をある程度変化させる可能性がある。このことは、数々の動物実験や疫学調査でも報告されている。しかし、そのメカニズムについては明らかになっていない。

・高血圧症には原因の明らかなものと、明確でないものがある。原因の明らかな高血圧症(=二次高血圧症)には、腎機能低下による腎実質性高血圧症や、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫などがある。これらの二次高血圧症の患者は、高血圧症患者の10%程度。つまり、高血圧症患者の90%は、原因が明確ではない本態性高血圧症ということ。

・カルシウムはカリウムと同じように、尿中のナトリウム排出を促進することが疫学的に証明されている。しかし、カルシウムのみにターゲットを絞った研究を行うことは難しい。カルシウム以外のありとあらゆる栄養素、ミネラルなどを排除した人体or動物実験を行うことは不可能だからだ。

・カルシウムの投与が血圧に影響するかを調べた研究もかなり行われているが、結果はまちまち。これらの研究のメタアナリシスでは、カルシウム摂取量の増加による降圧効果について、全体として見たときの明らかな効果は認められていない。ただし、カルシウムがナトリウムの尿中排出を促進していることは確かなので、明らかに食塩負荷に依存している高血圧には効果がある。

・人間にとって、生理的に必要な食塩量は1.5g/day程度。高血圧の予防という観点から見れば、食塩摂取量は少なければ少ないほど良い。2g/day以下にすれば、ほとんど高血圧を示す人が見られないことは、これまでの疫学的成績が示す通り。しかし、現代社会においてこの数字は現実的ではない。

・個々人の“適塩”はないが、一つだけハッキリいえることは、どんな人でも15g/dayという量は、食塩欠乏状態を起こすような何らかの疾患でもない限り必要ない。また、食塩制限を必要とする人は、10g未満/dayにすべきということ。

――高血圧気味だからといって、何となく減塩する必要は全くないということか? 減塩しょうゆのマズさは五大陸に響き渡るほどだからなぁ。まぁ、一般的な高血圧症であれば、総カロリー摂取量の制限(=食べる量が経れば食塩摂取量も減る)と運動で、大方のことは片付くんだけどね。

0 件のコメント:

コメントを投稿