2011年1月10日月曜日

『食堂かたつむり』に言いたいこと:その2(村の植生と近隣施設)

食堂かたつむりの舞台は、日本のどこをモデルにしているのか? 作品中では意図的に語られていませんが、イチジクから牡蠣、ワインまで近隣に何でも存在する実に都合の良い場所であることは確かなようです。というわけで、作品中に出てくる植生と近隣施設から、モデルとなった地域が存在し得るのか否かを探ってみたいと思います。

食堂かたつむりのある村の植生と近隣の施設は、以下の通りです。

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いちじく、あけび、ワレモコウ、トチノキ、棚田、広大な牧場(牛、羊、山羊を飼養)、養豚場、養鶏場、山にかこまれながらも海が近い、山の裏側にあるワイナリー、果樹園、ハーブ園、りんご、ドングリ、山ぶどう、栗、竹林、キヌガサダケ、ザクロ、比内地鶏、牡蠣、うど、三つ葉、ふき、つくし、よもぎ、たんぽぽ、たらの芽、わらび。

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さて、これらの植生、施設が共存する地域は日本国内に存在し得るのでしょうか? 結論から言えば「ギリギリ存在する」といえます。では、食堂かたつむりがあるのは、日本国内のどこなのか? というと、最も可能性が高いのは「秋田県」です。その根拠は「近隣の養鶏場で比内鶏を買い付けている」ことです。

比内鶏を巡る描写と推定については以下の通り。

「寸胴鍋のふたを開けると、すっかり変わり果てた姿の比内鶏が、あめ色になったスープの中でぷかぷかと浮遊している。私は数日前の、鶏がつぶされるシーンを思い出した。(中略)しばらくすると鶏はおとなしくなり、養鶏場の男の人に掴まれたままあっ気なく息絶えた」(95頁)

この描写から見るに、主人公は養鶏場で比内鶏がしめられるところを見てから買い付けていると推測できます。

主人公の行動範囲は電動三輪車の行動距離に規定されています。その距離は「けれどかたつむり号(都築注~電動三輪車のこと)があれば、村の中心くらいまでなら、自分の力で行くことができる」(70頁)と書かれています。このほかにも熊さんの軽トラックという移動手段がありますが、これは頻繁に使えるものではないようで、作品中でも多用されている形跡はありません。すなわち、比内鶏を飼養している養鶏場は、食堂かたつむりから極端に遠距離に位置しているとは考えにくいわけです。

比内鶏を飼養しているのは秋田県内の養鶏場(最も一般的なのは大館市)に限られているので、主人公が産地偽装をしていない限り、その行動半径は「比内鶏の養鶏場から極端に遠くない場所=秋田県内」と推定するのが妥当といえるでしょう。もちろん青森、岩手などの県境にある可能性もありますが。

そのうえで、上記の植生と近隣の施設について見ると、唯一危なそうなのはイチジクです。基本、暖かい場所で栽培される果実なので、「秋田県でイチジクが育つ余地があるものなのか?」と読んでいる間中思っていたものですが、よくよく調べてみると青森県でも栽培されている実績がありました。なので、秋田県にイチジクの実がなるという描写もあながちウソとはいえないようです。

それ以外の植生、施設については驚くなかれ全て秋田県及び秋田県近郊に実在します。ワイナリーと山羊については、「どう考えても東北にはねぇだろ」と思っていたものですが、これも調べてみると秋田県に実在していてビックリ。というわけで、植生と近隣の施設から推定される食堂かたつむりの場所は「秋田県」であると考えられます。

「いや、バンジージャンプの里とあるんだから、秋田県じゃなくて山形県朝日町じゃないか?」
「バンジージャンプをあれだけ強調していたんだから、群馬県しかあり得ないでしょ」

という声もあるかもしれませんが、一応、食をテーマにした小説であることを考えると、「比内鶏」というキーワードを優先した方が良いのではないかと。もし、山形県朝日町と考えると、比内鶏の養鶏場が集まっているであろう秋田県大館近隣まで随分遠出する必要がありますからね。しかも、海には全然近くないですし、牡蠣もありません。それでもなお「比内鶏」というキーワードを無視して考えると、お妾さんに出したサムゲタンの鶏肉の産地を偽装せざるを得ないわけですから。

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