2010年11月2日火曜日

中村紀洋、「noriの決断」:その3

・中村紀洋、「noriの決断」:その1
・中村紀洋、「noriの決断」:その2

ノリがなぜ一流選手になれたのか?

ノリ自身は、<指導拒否>をして自分のスタイルを守ったことと、2年目に水谷実雄コーチから<猛特訓>を受けたことが大きかったと考えているようだ。

「水谷さんの教えは絞り込めばポイントは2つ。①フォームを気にしなくていいから、振ったあとに倒れるくらい思い切り振れ。②そのためにも右足を徹底して鍛えろ。実にシンプルですが、これが僕には合いました」(106頁)

「その肉離れした太腿は、今もへこんだまま。普通なら完全にドクターストップ状態。でも、水谷さんは痛いもかゆいも一切お構いなし。ただ、そこまで徹底してやれたのは、やはり僕に信じられる、期待できるものがあったからだと思いますし、水谷さんからそれだけの熱意も感じられたからです。だから周りには『あの人おかしい』と言う人もいましたが、僕はただ、ただ感謝。その3、4年目の猛練習が今の僕を支えてくれていると思います。やっぱり、徹底してやる時間は絶対に必要なんです。それがない選手は長くはできないし、一流にもなれない。僕はそう思います」(108~109頁)

この教えをベースに軸足を徹底的に鍛えるため、地獄の練習を繰り返したという。当時の練習メニューは8~9割がバッティング。9時スタートのキャンプでは、30分前から打ち込みを始め、本隊がスタートしたら一緒にアップして全体練習。その後はまた特打ち。19時の夕食後は夜間練習――と、1日12~13時間練習していたようだ。シーズン中も休みなしで徹底してバッティングを鍛えた結果、3年目に101試合出場し、打率.281、HR8本。4年目にはレギュラーを奪取した。

ただ、この<猛特訓>にしても、<指導拒否>と同じようにやる選手はやっているものだ。もちろんノリの練習量は大したものだろうが、それ以上にマジメに練習に取り組んだものの、目の前のチャンスを活かせず一流になれないまま球界を去った選手も数多くいたに違いない。つまり、<指導拒否>や<猛特訓>だけでは、なぜ、ノリが一流になれたのかを完全に説明し切れるとは思えないのだ。

ノリとその他の選手を分けたモノはいったい何のか?

手前は「強烈なエゴイズムと上昇志向」にあったと見る。

これはFA騒動やその後のノリの野球人生を省みていっているわけではない。あくまでも同書に書かれていることから感じ取ったものだ。

本文中に何気なく書かれている以下の一文を読んでもらいたい。

「一軍に定着するためには、今一軍にいるメンバーにいるメンバーを蹴落としていかねばならない。現実的な話ですが、一軍メンバー40人をざっと見渡して、その中で一番レベルの低い人は誰か、と考えました」(95頁)

この一文に、ノリの持つ強烈なエゴイズムと上昇志向がよく現れているように思うのだ。

プロ野球選手であれば、多かれ少なかれこのようなことを考え、競争を勝ち抜き、レギュラーを目指すものなのだろう。しかし、高卒1年目の選手が、自分の親くらいの年齢の選手に囲まれながらここまで考えられるものだろうか? しかも、この自伝は「いかに自分はマスコミに誤解されているか」をテーマに綴っているのだ。すなわち、「いかに自分は謙虚で男気のある男か」をアピールしている本で、見方によっては傲慢極まりないことをサラリと書いているということ。これまでに多くのプロ野球選手、OBの自伝を読んできたが、これほどに強烈なエゴイズムと上昇志向を剥き出しにした文章は、そうお目にかかったことはない。

もちろんこれは褒め言葉だ。このくらいにハートの強い選手だったからこそ、<指導拒否>も<猛練習>も活きたものとなり、一流選手へと成長できたのだろう。言葉を変えれば、こうしたエゴのない優しい選手、上昇志向のない選手は、<指導拒否>をしても<猛練習>をしても上手くチャンスを掴めずに埋もれていったのではないだろうか。

もっとも、過ぎたるは及ばざるが如しという言葉通り、あまりにエゴが強烈過ぎると、チームメイトやフロントから「扱いにくい選手」という烙印を押されてしまうものなのだろう。ノリを巡ってはFA騒動以降も様々なスキャンダルが報じられたが、その多くは「真っ赤な嘘」というよりは、「ある面で当たっている」ことなのかも知れない。

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