2010年11月22日月曜日

<絶版兵頭本>紹介@『日本の高塔』:その2

・韮山「反射炉」:現存する幕末の反射炉では江川担庵が築いた韮山のものが最古。幕末の反射炉は全て同じ一冊の蘭書を参考にしていたため、サイズは全国どこでも同じ。その煙突高は16.5mに揃っている。日本に煉瓦が普及しなかった(詳細は『イッテイ』より)ことにより垂直大煙突が作れず、よって煙突も作れなかった。これが日本の工芸、建築素材に及ぼした影響は小さくなかったのではないか。今日の銭湯の煙突は大正時代以降のもの。

・横浜マリンタワー灯台:多くの「灯台本」には、日本一高い灯台として出雲日御碕「ひのみさき」灯台であると書いてあるが、海上保安庁で毎年刊行している『灯台表』を見れば、どれも不正確であることがわかる。電波灯台ではない発光灯台としては「横浜マリンタワー灯台」が日本一なのだ。日本一標高の高い灯台は兵庫県の日本海岸、余部「あまるべ」埼灯台。もともと日本の近代灯台は沿岸監視の機能も期待されていたが、北朝鮮のスパイ、人攫い、密輸犯がここまで横行するようになったのなら、高塔式の沿岸監視レーダーを、空自レーダーの死角になっているところに設けるべきでは?

・硫黄島「ロランCタワー」:「ロラン(Long-range Radio Navigation system)」とは、電波航法システムの中では最も早いもので、米軍が最初、中波で1942年6月に大西洋に実験局を作った。1944~45年には西南太平洋の占領地に次々と増設。44年以降の夜間長距離爆撃や潜水艦による通商破壊は、これにより容易になった。日本の灯台を真っ先に爆撃して困らなかったのも、ロランがあったからといえよう。ロランは朝鮮戦争の爆撃も容易にした。米軍はGPSの普及等により、平成5年に北太平洋のロランCを海上保安庁に引き継いだ。

・山の中の最高送電鉄塔:本書の取材のために、日本の全ての電力会社に宛てて、手紙で「高さ110mを超える鉄塔の有無と所在」を訊ねた。北陸電力からは一切情報は非公開との返事を頂戴し、沖縄電力からは返事がなし。四国電力は「合計10基ほどございます」と教えてくれた。東北電力にょうに110mを超える鉄塔が3基あると親切に教えてくれたところは大いにありがたかった。九州電力には天草に195m鉄塔が2基あり、北海道電力、関西電力には110m超の鉄塔はないとのこと。東京電力は我々をわざわざ同社最高の148.5m鉄塔のある某所まで案内してくれた。

・依佐美送信所:元々は戦前の対欧無線局。戦時中は遠隔地の潜水艦に対してVLF(超長波)で指令を発していた。VLFなら潜水中の潜水艦でも受信できるためだ。昭和22年には空中線を撤去、機能を喪失するが、昭和27年に米海軍が、世界各地の潜水艦にVLF電波を送信する基地の一つとしてここに注目。設備が再建された。VLF通信は、常時潜行しているミサイル原潜に対する指令機能に威力を発揮するものだったため、昭和59年にはソ連に煽られた全世界的な反米反核基地運動のターゲットにもされた。

・東京タワー:特別展望台は、もともと一般観光客には公開していなかった。昭和43年に「霞ヶ関ビル」ができ、その展望回廊に大展望台の高さが抜かれてしまったため、急遽公開されることになったという謂れがある。

・市ヶ谷タワー:1991年の湾岸戦争の空爆で、最も破壊しにくかったイラクの施設は、電波塔のように地面から直接生えている自立型鉄塔だった。ビルならば巡航ミサイルで容易にヒットできるため、1999年のユーゴ空爆では、局舎と電力設備を破壊されたセルビアの放送局が沈黙させられた。

・雑学・世界のモニュメント:誰が確かめたのかわからないが、焼煉瓦をアスファルトで結着した「バベルの塔」の高さは90mだったらしい。ジッグラトに類似したもののようだが、藁入りの日干し煉瓦しかない古代、柱状の構造物で高度を稼ぐことは不可能だったため、技術的に唯一高度を稼げる台形積層構造としたのだ。「ピラミッド」の高さは146m。159mの尖塔一対を持つケルン大聖堂が1880年に竣工するまで、世界一高い構造物だった。

・失われた木造塔と天守閣:縄文遺跡の柱穴の発掘調査から、集落の見張り用の櫓が復元されたりしているが、たぶん最も早い日本の高塔は、そうした用途で作られたのだろう。文献上、最も早い高塔は585年に蘇我馬子が建てた「大野丘北塔」がある。しかし、この塔以下、室町時代にかけての高塔については全て地上高データを欠く。相国寺の109mの七重大塔も、その高さについては文献に明記しているものではない。

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