2010年10月29日金曜日

今中慎二、「中日ドラゴンズ論」:その2

ここまで書いてきた<今中のスタンス>を踏まえたうえで、同書の内容を振り返ってみると、この<今中のスタンス>こそが、“落合中日”(落合博満は「監督+チーム」という呼び方を人一倍嫌っているが、ここでは「2004年から2010年の中日」を指す言葉として便宜上使わせてもらう)の強さの深層を掘り下げるためのカギとなっていることが良くわかる。

なぜなら、“落合中日”の強さの深層は極めてシンプルなものだからだ。

「なぜ、ドラゴンズは勝てるのか」
「その答えは、簡単です。そしてこれは、今回の本を出すにあたって、落合監督からいただいたコメントがすべてを言い表しているでしょう」
「『プロにとって当たり前のことをしているだけ。それが中日の強さ』」(16頁)

そのうえで、「当たり前のことができるチーム、選手は、プロでさえ本当に少ない」とし、“落合中日”がどのような当たり前のことをやっているのかを詳らかにしていく。

恐らく今中は、やろうと思えばいくらでもひねった書き方をしたり、ハッタリをかましたり、穿った視点で切り込めたことだろう。NHk野球中継での話し振りや、TV解説者としては珍しいほど日頃からマメに取材している姿勢を見れば、テクニカルな書き方で読者を説得することも簡単にできたはずだ。

それでも敢えて当たり前のことを当たり前に書き、“落合中日”の強さをありのままに伝えてくれたからこそ、“落合中日”の強さの理由として多くのファンが議論し、推測していたファクター――「軸が2人だけのローテーション」「4~6月までは若手試行期間」「かけがえのない岩瀬の存在」「選手起用の明確な基準」「メディア対策の計算と意義」……etc――が、ほぼ事実であったことが確かめられたわけで(今中はシーズン中に何度も落合取材し、確証を得た上で書いている)、この点だけをとって見ても、「中日や落合に興味がある野球ファンであればすべからく読むべき本」と言えると思うのだ。

と、ここまではコアな中日ファン向けのハナシ。中日、あるいは落合のことを良く知らない野球ファンや、「なんでアノ貧打、アノ陣容で優勝できたの?」と、中日の強さについてぼんやりとした印象しかないライトな中日ファンにとっては、“落合中日”の最高の入門書となろう。一々、スポーツ紙や専門誌、ファンblogをチェックせずとも、これ一冊を読めば“落合中日”の強さの理由がたちどころに理解できるはずだ。
(つづく)

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