2010年10月28日木曜日

今中慎二、「中日ドラゴンズ論」:その1

◆目次
・第1章:中日ドラゴンズが勝つ「当たり前の理由」~明確なシーズンプラン~
・第2章:中日ドラゴンズの「不気味」さの理由~先入観を作りだすメディア対策~
・第3章:中日ドラゴンズの監督力~星野イズムと落合イズム~
・第4章:中日ドラゴンズの伝統力~なぜ、投手力が強いのか~
・第5章:中日ドラゴンズと未来~ファンと一体感のあるチームに~
・特別収録:川相昌弘×中村武志×今中慎二 「鼎談 外から見たドラゴンズ、内から見たドラゴンズ」

同書の内容は、中日のエースだった今中慎二が「2010年のドラゴンズの強さ」について、自らの体験(80年代後半~90年代にかけてのドラゴンズ)を振り返りつつ、「現在の強さ」と「伝統の強さ」を選り分けて検証しているというもの。

正直なところ、書かれている内容には何ら目新しいところはない。2010年のドラゴンズがなぜ強かったのか? について、具体的に語っている点は、すでにスポーツ紙や他の論者が言い尽くしていることでもあり、コアな中日ファンにとっては言わずもがなのことしか書かれていないといっていい。

実際、第1章の内容にしても、「全選手が一塁まで全力で走っている」「キャンプ時からシーズン後半に合わせて調整している」「練習量が極めて多く、かつ豊富」――といったことを今中の言葉で語りなおしているだけで、読者のなかには「こんな中身のない本を出して、バカにしているのか?」と思う人もいるかも知れない。

しかし、同書で今中が書いているような「いわずもがなのことを書く=当たり前のことを当たり前に書く」ことは、実のところ誰にでもできることではない。

自分の主張、言葉がビジネス(ギャラのランク、解説者としての“格”など)に直結する野球解説者の多くは、「読者へのサービス」「自身の能力の誇示」を目指し、当たり前のことを当たり前には書かかない。ほとんどの場合、ひとひねりして書いたり、ハッタリや長広舌をかましたりするものだ。最近の野村克也の著書は、その典型例だろう。このようなスタンスで書けば、信者からは「こういうことは彼にしか書けない」と支持されるものだ。批判的なファンからは様々な誹謗中傷を浴びるものだが、このようなスタンスで書いていれば、少なくとも「お前はこんな当たり前のことしか書けないのか?」という非難だけは浴びせられることはない。

当たり前のことを当たり前に書かないということは、ある意味で、自分のプライドを守る“安全”なやり方といえる。

翻って同書は、ともすればファンからバカにされかねないストレートな書き方を通している。この潔い姿勢! そして何より事実を事実として書く、自分の都合で捻じ曲げない筆致は、近年の野球解説者の解説本にはほとんど見られなかったものだ。
(つづく)

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