2010年9月8日水曜日

山本昌、「133キロ怪速球」:その1

今年無傷の4勝。春先からどうにも乗り切れなかった2010年の中日ドラゴンズに現れた“45歳のラッキーボーイ”である山本昌投手。『133キロ怪速球』(ベースボール・マガジン新書)は山本昌投手の初めての自伝だ。

目次は以下の通り。

・第一章:投手としてのこだわり
・第二章:野球人生のスタート
・第三章:転機――米国野球留学
・第四章:プレッシャーとの付き合い方
・第五章:わが師の教え
・第六章:「遊び心」を磨く
・第七章:正しい努力の方法

内容的には、自身のホームページ(Way to Win)や「湘南の快男児」などと重複するものが多く、新味のあるものではない。「スクリューボールの師はフェルナンド・バレンズエラではなく、スパグニョーロという出稼ぎ内野手」とか「星野監督に『全力で投げてみろ』といわれ、『これが精一杯なんです』と答えて呆れられた」といったエピソードは、山本昌投手のファンにとっては“基礎教養”といったところだろう。

同書の大部分はこうした“基礎教養”で占められているが、それ以外のエピソードも少なからず紹介されている。その一つがタイトルの由来であり、山本昌投手が現役を続ける一つの基準<133キロ怪速球>の意味について解説している点だろう。

「さて、大好きな見逃し三振を奪うそのストレートであるが、僕はこんな言葉を口にしたことがある」
「『全力で投げて133キロが出なくなったら、引退する』」
「これはある意味、本心である。そして、今もそう思っている。『たいして速くないじゃないか』と思われるかもしれないが、僕にとってはこれが引き際の“ライン”なのだ」
「133キロへのこだわり。なんとも中途半端な球速ではあるが、僕の経験則からはじき出している。これだけのスピードさえあれば、ストレート勝負ができる。逆にいえば、これ以上の速さが出ているうちは、僕は現役を退きたくないし、ストレートで打者と勝負できるということになる」(27~28頁)

プロ27年目のベテランが語る経験則だけに無条件で信じたくなるが、この「左投手の133km/hは、プロの第一線で通用する最低ライン」という基準についていえば、ある程度客観的な証拠も存在する。例のごとく落合博満の証言を引いてみよう。

「本格派サウスポーの投げる145キロのボールの威力は、球質や角度などから総合的に判断すると、右投手の150~155キロに匹敵する」(『プロフェッショナル』145頁)

つまり、左投手のストレートは右投手のそれと比べると体感速度で5~10km/h早く感じるということ。右打者にとって左投手のストレートが早く感じるということは、TV解説などでも良く言われることで(例:中畑清、山本浩二など)、落合の専売特許ではない。その理由については諸説あるが明確なものは何一つない。ただ、多くの選手やOBが同じように証言している以上、「左投手のストレートは右打者にとって早く感じる」ことは真実なのだろう。

そのうえで、ストレートにどれだけのスピードがあれば一線級で戦えるのかについては、中日移籍当時の西本聖を引き合いに出して、「コントロールが良ければ130km/h後半で十分」という。

「前にも書いたと思うが、ピッチングの基本は、真っすぐなのである。どれだけ真っすぐに力があるかで、ほかのボールが生きてきたり、死んでしまったりするのである」
「(都築注:中日移籍当時の西本聖について)このころの彼は、そこそこの真っすぐをほうっていた。一三〇キロ後半のスピードが出ていたのではなかったか。これだけの真っすぐをもっていたから、彼のシュートはさえわたったのである」(『勝利の方程式』97~98頁)

以上の落合の証言を照らし合わせてみると、山本昌投手の言う<133キロ怪速球>は、落合の指摘する「プロの一線級で通用する最低限のスピード=130km/h後半」に相当するということだろう。三度の三冠王と最後の200勝投手というレジェンドが、ともに同じような指摘をしていることを考えれば、少なくとも21世紀初頭の日本プロ野球においては「右投手は130km/h後半、左投手は130km/h超の良くコントロールされたストレート」があれば、プロの第一線で通用すると断じて良いのではないだろうか。
(つづく)





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