2010年8月5日木曜日

*読書メモ:植物で未来をつくる

以下、同書「7章:コメでスギ花粉症を治す」(120頁~)より

・独立行政法人農業生物資源研究所・遺伝子組換え作物開発センターは、「スギ花粉症緩和米」の開発に取り組んでいる。動物実験では目覚しい効果を見せているという。

・花粉症の根治治療としては「減感作療法」がある。抗原成分を皮下注射で身体の中に入れる治療法で、数年間注射を続ける。治療にあたってはアナフィラキシーショックを起こさないよう細心の注意が必要であり、医療費負担も極めて大きい。

・「減感作療法」を安全に行なうための研究は、世界各国で行なわれている。欧米ではハチ毒アレルギーに対する治験で、抗原タンパク質ではなくT細胞エピトープの投与が行なわれ、症状の改善が認められている。また、舌下投与は欧米では実用化されていて、日本でも治験が行なわれている(都築注:舌下投与は鳥居薬品が開発中。現在、フェーズⅢ)。

・こうした研究成果を知った同センターの高岩文雄センター長は、「毎日食べる米に、T細胞エピトープを蓄積させ、これを食べ続ければ、花粉症の症状を緩和できるのではないか」と思いついた。

・多くの医学者は、「エピトープは消化酵素によって分解されてしまい、実用化は無理」と考えた。しかし高岩センター長は、「米の中に含まれていれば、消化スピードが変わるはず。勝算あり」と考えた。

・コメの胚乳にはタンパク質が顆粒状になって含まれている。この部分にT細胞エピトープを大量に蓄積できれば、消化酵素による分解を受けにくく、腸管に達してから効率的に取り込まれるという判断。

・T細胞エピトープは、アミノ酸が10~20個つながった短いペプチド。このままイネのゲノムに導入しても、短すぎるため細胞が上手くペプチドを作り出さない。

・そのためT細胞エピトープをつくるためのDNAを、大豆のグリシニンをコードする遺伝子に導入して「融合グリシニン遺伝子」を製造。この遺伝子をイネのゲノムに導入した。さらにT細胞エピトープが含まれる「改変グリシニン」が細胞のなかで安定して産生されるように、合成のスイッチの役目を果たすような塩基配列を「融合グリシニン遺伝子」につけた。

・マウスでの実験は大成功。花粉症緩和米を食べさせたマウスの花粉に対する反応(5分間のくしゃみ回数)は8回。普通の米を食べたマウスの24回に対して有意に減少した。研究結果は「米国科学アカデミー紀要」(05年11月29日号)で発表され、大きな反響を巻き起こした。

・この研究の意味はどこにあるのか? 著者曰く、「さまざまな病気の『食べるワクチン』をコメにため込み、口から腸まで分解させずに運び腸粘膜細胞に届ける“ゆりかご”としてコメを利用する。イネを使って、一石二鳥のこのシステムを開発したところに、高岩さんの研究の大きな価値があるのではないか」(133~134頁)と。

・生産コストが安く(ワクチン製造のコストは一般的な錠剤、液剤などよりも遥かに高い)、摂取方法が簡便で安全で負担が少なく(ただ毎日食べるだけ。注射による感染症のリスクなども一切ない)、流通保存の利点も極めて高い(一般的なワクチンは1年持たない。米は室温で数年間が保存できる)。なので、開発途上国のマラリアやコレラのワクチンのようなものに応用されれば、そのメリットは計り知れない。

感想:遺伝子組換え作物に対するリスクについて、手前の考えを一言でいえば「それって従来の品種改良とどこが違うの?」。試験管の中で研究者が酵素と細胞をいじって“キメラ”を作ることと、接木をすることに本質的な違いはない。いずれの方法で新たな品種ができたとしても未知のリスクはあるものだ。だいいちじゃがいも一つとっても、全ての化学物質と、それが人体に及ぼす影響の全てを解明できていないわけだからね。

0 件のコメント:

コメントを投稿