2010年8月3日火曜日

『龍馬伝』がひどすぎる件についてもう少しだけ

「あれは洋上にいたのではなく停泊していたのだ。そこにお元(隠密芸者)から情報を知らされた長崎奉行所の隠密が折りよく停泊していた薩摩の軍船に忍び込んで、何かを探っていたのだ」

昨日書いたアノ件について最大限弁護するとしたら、こんな感じになるでしょうか。

確かに放映されたシーンだけでは、巡航中だったのか停泊中だったのかまでは完全に判断できないわね。停泊中であっても船は揺れるし。だったらテロップで「長崎港・薩摩軍船内」って出すとか、西郷に「明朝出発する」とかいうセリフを言わせるべきなんじゃないの? そうやって停泊中であることを示すサインを出さないと、絶対にわかんないもの。

桂小五郎に「15日も待っている」と言わせ、西郷隆盛が藩論をまとめて喜ぶシーンを見せるのであれば、その直後に映し出された船内の状況は、時系列的に見て「西上に急ぐ途上の船内」であるのが自然なはずだもの。これで何の注釈もなければ10人中10人が「あぁ、西郷は桂に会うために急いでるんだなぁ」と思うでしょう?

でもねぇ、このように最大限善意に解釈してやってもだね、あのシーンはおかしいですよカテジナさん!

・停泊中の船に隠密が潜入するのであればカッター(やそれに準ずる小船)で乗り込む必要があるけど、そんなモノで夜陰に乗じて乗り込めるものか? 泳いで乗り込んだり桟橋から乗り込むってのはナシな。

・仮にカッターで軍船に近づくことが出来て、ロープなりを甲板に掛けて首尾よく乗り込んだとして、無事に帰れるのか? 潜入しているあいだに乗り込むためのロープやカッターを見つけられたら一巻の終わりだろう。特攻作戦ってのはナシな。

・そもそも薩摩軍船の運行計画をどうやって知ったんだろう。今みたいに運行計画を国交省に提出することはないわけだし。薩摩という“外国”が秘密裏に進める運行計画は文字通り秘中の秘なはず。だから軍船が停泊していたとしても、どれが薩摩の船かはよくわからなかったんじゃないかなぁ。薩摩藩士の内通ってのはナシな。

それにここら辺のことをすっ飛ばして“全部アリ”にしたとしても、一人の隠密を逃したことで、計画を変更する必要があるのかね?

「一人の隠密がもたらした情報が、薩摩にとって決定的な不利になるかもしれない」

といってもさぁ、あの時点で薩長同盟を文書化したものは三条実美の密書(龍馬が持ち、桂に渡したモノ)しかないわけでしょう? 薩摩側にはこのことを何らかの文書にする必要は一切ないわけだから。となると、取り逃がした隠密が薩長同盟に関する決定的な文書を持ち出している可能性はゼロということ。

で、逃げ出した隠密が長崎奉行所なりに「薩摩は長州と同盟を組むらしい」って情報を持ち込んだとしてだね、その証拠となる文書がなければ誰も信じなかっただろうし、そういうことは西郷としても十分予見できたわけでしょう。慎重を期すといっても、これでは石橋を叩いて壊すようなもので、ようするに「情報漏えいの可能性を奇貨に、気の進まなかった薩長同盟の談合を回避した」って考えた方が自然だもの。なもんで、あくまでも情報漏えいが直接的に薩摩の動きを止めるとするなら、公儀隠密のせいにするよりは「公家から幕府要人に情報が漏れた!」とか「長州との同盟を嫌う小松及び大久保が、四賢侯の誰かにリークした!」とかの方が、(いずれも荒唐無稽とはいえ)少しは現実的だと思うんですよ。

0 件のコメント:

コメントを投稿