2010年8月17日火曜日

私家版・兵頭二十八の読み方:その8

**「私家版・兵頭二十八の読み方」のエントリでは、日本で唯一の軍学者である兵頭二十八師の著作を、独断と偏見を持って紹介します**

ロボット技術の進歩と浸透が加速するなかで、日本はどのような手を打てば良いのか? 兵頭師は「<ハイテク軍備一点かけながし>の財政出動」により、ロボット産業を振興することこそが、一石三鳥の絶妙手であると説きます。

「市場に任せておくことが絶対に不可能な『国防』を中心とする安全保障の公共サービス分野に税金を投入することは、民主主義国家の根本道徳として、まず正しい政策です。国防こそ、国民福祉の基礎なのですから」
「その上で、政府が投資する分野を、『軍用ロボット開発』を中心とする『ハイテク軍備』にあくまで集約することで、日本社会が直面する『若年マンパワー不足』の問題が至短時間で解決されるだけでなく、バラマキ財政につきものの、衰退企業を不合理に富ませてしまう滅亡自己加速現象や、崩壊した旧ソ連式経済と同義語である『役人天国化』も、予防ができるでしょう」(15~16頁)

このようにいいことずくめの「<ハイテク軍備一点かけながし>の財政出動」とはどういうことなのか?

兵頭師は軍備への財政出動の意義を語る上で、アメリカの成功を例に挙げています。ハイテク軍備への莫大な投資により大恐慌~第二次大戦を乗り切り、冷戦でソ連に打ち勝ってきたことを論証(第一章:米経済の強さの源はハイテク軍事投資)したうえで、日本は現在に至るまで軍備への投資をまともにしたことがないことから、「長年放置されてきた<肥沃な砂漠>に水を灌ぎかけることで、たちまち美田ができてしまう」(24頁)と、いまハイテク軍備(ロボット技術開発)に莫大な投資を行なえば、その効果は劇的なものになるだろうと予測。

そのうえ財政出動の手法を“一点かけながし”にしなければならない意味について、次のように主張しています。

「『ハイテク軍備一点かけながし』の長所は、市場にまかせていては本来機能のしようのない安全保障対策を、政府資金の最初の投入口だとハッキリ規定してしまうことによって、小役人による『統制経済化』を自動的に阻止できるところにもあります」
「最初の『水門』をあくまでひとつだけに限定しておくことが、肝要なのです。これができないとするならば、大きな落とし穴に国全体が落ち込むおそれがありましょう」
「すなわち、戦前に日本がいちど大失敗させている『統制経済』と、非開発部門(最終的にはインテリ役人たちの生涯所得)への緊急資金垂れ流しです」
「民間会社の社長にすっかり任せておけばいちばんうまくいくことまで、ぜんぶ生粋のエリート公務員が口を挟んで指導(という名の宴会相伴)をしようとしたのが、日本式の統制経済でした」
「この二の舞をもういちどやったら、おそらくその先にまつものは一九四五年と同じ、官僚宴会亡国でしょう」(52~53頁)

兵頭師の主張を手前なりに大雑把な感じで咀嚼してみると、以下の通りになります。

・民間企業が参入し難い軍用市場に多くのプレイヤーを呼び込むため、国が率先して財政出動を行なう
・ただし、財政出動は「軍用市場のハイテク兵器開発」という大目的だけを設定しておいて、細かな開発目的や費用の使いみちは参入プレイヤーに一切合切まかせる

つまり、ハイテク軍備に「カネは出すが口は出さない」を地でいくことで、若い研究者の思いつきや突拍子もないアイディア、予算がなくて断念したハイテクプロジェクトなどの事業化に道筋をつけ、これから爆発的に拡大するであろう世界のロボット市場をリードしていこう――という主張です。

「<ハイテク軍備一点かけながし>の財政出動」が、どれほどの波及効果を生みうるか? 少子高齢化対策、移民対策、内需拡大……数多くのメリットがあるとしていますが、詳しくは、同書を手にとって確認してみてください。
(つづく)

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