2010年8月9日月曜日

川島堅、「野球肩・野球ひじを治す本」:その1

先日、甲子園の開幕セレモニーの番組で、過去に春夏連覇を果たした高校として87年のPL学園(立浪和義、野村弘樹、橋本清のチーム)が紹介されるのを見ながら、「そういえば川島堅が連続無四球イニングの記録を作った大会だっけ」ということを思い出した。

東亜学園の川島堅は、手前が見てきた高校野球の投手の中で一番好きな投手だ。思春期の多感な頃に活躍した好投手ということもあって評価が甘くなっていることは自覚している。しかし、そうした贔屓目を差し引いても素晴らしい投手だった。

全ての投手にとってのお手本となるようなフォームから繰り出されるノビのあるストレートと、ほとんど全てのケースでアッサリ2-0に追い込んで勝負するプロ以上のコントロールを夏の大会で見たときには、「あ、桑田以上! 桑田以上!!」と興奮したものだ。同期にはPLの野村、橋本のほかに伊良部秀輝、芝草宇宙、盛田幸妃(大会では目立たなかったけど、函館有斗のエースということで日刊スポーツ北海道版で何度も取り上げられていた)らがいたが、手前の評価は「彼らの中では頭三つ抜けてる」というもの。そのままプロに入っても、「“悪くて桑田真澄くらい”は活躍できる」と信じていた。

ドラフトでは阪神、近鉄、広島が競合した結果、広島に入団。翌年の春季キャンプを訪れた野球評論家から「そのままでも20勝できる」と太鼓判を押されたものの、大器の片鱗を見せたのは2年目のオープン戦だけで、3年目にフォーム改造をしてからヒジを故障。手術後、リハビリを続けるものの再起を果たせず引退した。

その後、川島は「ケガを治す立場になって野球に恩返しをしたい」という思いから柔道整復師の資格を取得。接骨院での業務の傍ら、自らの経験を糧に出した本が『野球肩・野球ひじを治す本』(マキノ出版)だ。

目次を見ると――

・第1章:なぜ肩やひじを痛めるのか
・第2章:肩・ひじの構造と主な障害
・第3章:野球肩・野球ひじを自分で防ぎ治す
・第4章:野球肩・野球ひじを克服した体験者の手記
・第5章:肩・ひじを痛めない投球フォーム
・終章:私はなぜ柔道整復師になったのか

――とあるように、その内容は「全ての野球少年と草野球プレイヤーに向けた野球肩・野球ひじの解説本」いうものだ。筋肉、骨格の解説から肩、腕の各部位のトレーニング方法などがイラストつきで極めて平易に解説されている。正直、内容面では医師やトレーニングコーチなどが書いたものと大差ないが、書いている本人が「ひじのケガで大成できなかった元プロ野球選手」だけに、説得力という点では類書に比べて段違いに優れているといえよう。

手前的に注目したのは「第5章:肩・ひじを痛めない投球フォーム」。川島は、各々の投手の投球フォームが千差万別であるとしたうえで、「すべての投手にとっての理想の投球フォームというものは存在しません。しかし、理想の投球というものは存在します」(142頁)と説く。

では、<理想の投球>とはどのようなものなのか? 答えは「打者にとって打ちにくいボールを投げること」(143頁)だ。

「俗に、『球持ちがよい』『ボールの回転がよい』『ボールに体重が乗っている』などといわれることが、打者が打ちにくい条件になります。そんな投球が理想といえるでしょう」(143頁)

問題は、この<理想の投球>を長続きさせることであり、つきつめると無理をしない投球フォームの基本を踏まえることが重要であるとする。

「ボールを離す一瞬に100%のパワーを発揮するためには、『バランスのよい体の使い方』と『スムーズな体重移動』が基本になります。そして、この2つの基本こそが、ケガをしない投球フォーム、打者が打ちにくいボールの投球につながるのです」(144頁)

このように噛んで含めるように基本の基本から説く川島の投球フォーム解説は、プレートの踏み方、軸足や肩、左腕の使い方からフィニッシュまで続く。
(つづく)

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