2010年5月4日火曜日

川口和久、「投球論」:その1

川口和久の『投球論』は、投手が書いた野球本のなかで一番好きな本だ。なぜ、一番好きなのか? 「類書にはない突っ込んだ技術解説がなされている」「驚くほど素直に投手心理を吐露している」「本人の人柄がそのまま顕れたような、独特のクセのある文章で綴られている」など、理由はいくらでも挙げられる。ただ、こうした理由はいずれも枝葉の話であって、突き詰めれば「手前が一番好きだった投手の本だから」となる。

・最速140km/h後半、常時140km/h台のキレの良いストレート。
・大きく縦に割れるカーブ
・この2つの球を武器にバッタバッタと三振を取り捲るサウスポー

これが全盛期の川口だった。コントロールが悪く、初回から四球を連発して、どれだけランナーを溜めても、残りのアウトを連続三振で斬ってとる。先発完投して一試合当たりの球数が140~150球を数えることもザラという典型的な「フルハウスピッチャー(常にフルカウントで勝負する投手)」。窮地に追い込まれたときに奪う「緩いカーブでの見逃し三振」や「インハイのストレートでの振り遅れの三振」は実に見ごたえがあった。こういった類の三振は、投手が打者を圧倒していなければ奪えないものだからだ。

フォークボール全盛の昨今では、空振り三振といえば「フォークでの豪快な三振」が定番だろう。ただ、豪快な空振りを奪うフォークのほとんどは見逃せばボールに外れる球だ。その勝負は打者が振るか振らないかだけに左右される、いわば「一か八か」の大味なものといえる。

翻って本格派の武器であるカーブは、一流打者に狙い打たれれば確実にヒットされるものの、狙いを外せばストライクが取れ、なおかつ投手の技量次第では打ち取れる球でもある。ストレートとカーブしか持たない本格派投手の勝負は、フォークのような丁半博打ではなく、技量と配球、度胸の全てを賭けたギリギリの勝負になるということ。

言葉を換えれば、フォークボーラーの三振は、投手の実力に関係なく偶然で取れることもあるが、本格派投手の三振は、実力で相手を上回らないと絶対に取れないものともいえる。ハイレベルな本格派投手――若き日の江夏豊、江川卓、今中慎二など――が、面白いほど三振を奪っていた所以だ。

本格派サウスポーである川口は、自身をどのようなピッチャーであると考えていたのか?

『投球論』は、川口自身の経験から導き出した「投手とは何か」という定義付けからスタートする。
(つづく)

0 件のコメント:

コメントを投稿