2010年4月6日火曜日

星野伸之、「真っ向勝負のスローカーブ」:その2

「(アウトローへ投げ込むフォームが)体の使い方としては一番難しい。力を上手く抜き、ボールをリリースするポイントもかなり捕手よりなので、最後までボールを持っている感覚をつかまなくてはならない。イメージとしては、ホームベースのアウトコースの縁から垂直に伸びる一本の線を思い描き、その線の中に体を入れていく感じで投げる。そして、高低の調節は、リリースポイントによって行なう」
「このフォームが固まって、右打者へのアウトロー、左打者へのアウトローへ、高い確率で投げられれば、ほかのコースへも自在に投げ分けられる」(46~47頁)

コントロールをつけるためにはどうすればいいか? 投手であれば誰もが抱く根源的な問いに対する星野の回答だ。江夏豊を始め多くのOBが、アウトローに投げ込む練習の必要性を説き、その意図を解説している。星野の回答は極めて簡潔だ。つまるところ、「一番辛く、一番難しいことをやっておけば、他のことは難なくできる」ということ。

これだけなら類書でも良く見られることだが、星野の真骨頂は「そもそもストライクが入らない」という投手に対して、具体的な解決法を提示していることにある。

「自分にとって一番自然なフォームで、ホームベース目がけて思い切り投げてみよう。どんなにはずれてもいいから、変に小細工せずに、自然に、思い切り、である」
「そのときにボールがどこへ行ったか。仮に外へボール2~3個分はずれたとしよう。ここで、『じゃぁ次は、ボール2~3個中へ入れれば外角いっぱいのストライクになるな』と考えないことだ。~~中略~~それよりも発想を変えて、『もう1球、同じ感覚で同じボール球を投げてみよう』と考えてみてはどうか。つまり、“自分にとって一番自然な投げ方”をしたときに、狙った目標からどこへどのくらいボールがはずれてしまうのかを把握しよう、と考える」(50~51頁)

そのうえで、同じように投げた球は同じように外に外れたのであれば、そこで初めて“自分の基準”ができることになる。この基準をベースにできるだけフォームをいじらず、身体の向きを変えたり、プレートを踏む位置をずらしたりしながら、“自分の基準”球がストライクになるように工夫せよ――という。

この提案は、ピッチングをとことん考え抜いた人にしかできないものだろう。言われてみれば当たり前のことだが、こうした“コロンブスの卵”を発見するのは誰にでもできることではない。ストライクが入らない投手を片っ端からサイドスローに改造するような、どこかの投手コーチに聞かせてやりたい言葉だ。

野球のピッチングは、思い切り腕を振りぬいて投げた拳大のボールを、18.48m先にある空き缶にクリーンヒットさせるようなことだ。あらゆるスポーツの中で最も難しい技術の一つであり、背の高さ、腕のリーチはもとよりツメの長さ、指先の湿り具合一つで、ストライクゾーンに入らなくなるほどデリケートなものでもある。技術的なブレークスルーや解決方法は人それぞれであり、これを普遍的に通じる形で簡潔にまとめることはとても難しいことだ。星野が誰にでも通用する“コロンブスの卵”を自信を持って提言できるのは、それだけピッチングを探究し、その理論を完全に消化しきったからなのだろう。

ここで紹介した事例以外にも、「ピッチングに対する発想の転換と簡潔で的を射た説明」は数多く掲載されている。
(つづく)

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